鼠径ヘルニア(脱腸)とは

鼠径ヘルニア(脱腸)とは

鼠径(そけい)ヘルニアとは?

鼠径(そけい)ヘルニアとは足の付け根にある鼠経部の皮膚の下に、本来はお腹の中にあるはずの腸や筋肉・脂肪組織・皮下脂肪が筋膜の間から外に飛び出てしまう病気です。一般的には『脱腸(だっちょう)』ともいわれています。

鼠経ヘルニアになると、鼠経部のあたりにしこりやふくらみを自覚します。発症初期は痛みや違和感はほとんどなく、飛び出た部分を指で優しく押すと脱出した腸や筋肉・脂肪組織・皮下脂肪は体の中に戻ります。しかしそのまま放置していると、腸や筋肉・脂肪組織・皮下脂肪が飛び出したままになって血流がうまく流れなくなり、腸管壊死などの重篤な症状を引き起こす可能性もあります。また腸などが飛び出していることで痛みや違和感を生じ日常生活に支障が出てくるケースも少なくありません。

鼠径ヘルニアは良性疾患で、小さなお子さんから高齢者まで誰でも発症する可能性がある病気です。子どものヘルニアはほとんどが先天的なもので、男児のほうが多い傾向があります。泣いて力が入ったときに腸が飛び出すことで、発見されるケースが多いです。

一般的な治療方法は手術による治療で、年間約15万件の手術がおこなわれています。なお当院では小児ヘルニアの診療・治療は行っていませんので、他の連携する医療機関へご紹介をしております。

鼠径ヘルニアの原因

鼠経ヘルニアの原因は生まれつき発症しやすい『先天性』と生まれた後の生活で発症しやすくなる『後天性』の2つがあります。
先天性では生まれつき鼠経部や腹壁の筋肉の弱い部分があるため、ヘルニア嚢ができやすくなっている状態で、新生児の頃から鼠経ヘルニアを発症しやすくなった状態です。

後天性は力を入れる動作を繰り返したために鼠経部や腹壁に圧力がかかってヘルニア嚢ができてしまったり、加齢により筋力が低下したりしたために鼠経ヘルニアを発症しやすくなった状態です。
以下に後天性の原因で鼠経ヘルニアになりやすい人をまとめましたので、参考にしてください。

  • 出産経験がある
  • 力仕事をしている
  • 重いものを持ち上げる機会が多い
  • 立ち仕事をしている
  • 咳が多い
  • 過激な運動をしている(筋トレ・サッカー・アイスホッケー・ラグビーなど)
  • 太り過ぎている
  • 痩せている
  • 便秘がち
  • 腹部大動脈瘤の既往
  • 経後恥骨的前立腺摘出術の既往
  • 腹膜透析をしている

鼠経ヘルニアの種類

左右の太ももの付け根に発生するヘルニアを総称して『鼠経ヘルニア』とよびます。おなかにできるヘルニアの80%が鼠経ヘルニアです。鼠経ヘルニアは、どの部分にヘルニアができるかで次の3種類に分けられます。

  • 外鼠経ヘルニア
  • 内鼠経ヘルニア
  • 大腿ヘルニア
外鼠径ヘルニア

外鼠経ヘルニアは一番多いタイプの鼠経ヘルニアです。鼠径部には鼠径管という筒状のものがあります。これはお腹の中と外をつなぐ管で、男性の場合は睾丸へ行く血管や精管が、女性の場合には子宮を支える靱帯が通っています。加齢や筋力の低下などによって筋膜が弱くなると、鼠径管の入口がゆるんで腹膜が外に飛び出しやすくなります。やがて袋状のヘルニア嚢となってその中に腸などがでてきてしまうのです。これを外鼠径ヘルニアと呼んでいます。男性が発症しやすいタイプの鼠経ヘルニアです。

内鼠径ヘルニア

内鼠経ヘルニアは腹壁の弱い場所から腹膜が袋状に伸びて、鼠径管内に脱出した鼠径ヘルニアです。症状は外鼠径ヘルニアと差がありません。

大腿ヘルニア

大腿ヘルニアは出産経験のある女性に多く見られるタイプの鼠径部ヘルニアです。大腿の筋膜や筋肉が弱くなることによってヘルニアが発生しやすくなります。

鼠径ヘルニアの症状

腸がヘルニア嚢に飛び出してしまう鼠径ヘルニアの代表的な症状は、鼠経部のふくらみやしこりです。ほとんどの場合飛び出した腸は自然に元に戻るため、痛みなどの症状を伴いません。

しかし嵌頓(かんとん)といって、飛び出した腸がヘルニアの出口で締め付けられてしまって血流が悪くなると、飛び出た腸の部分が赤くなったり、痛みや吐き気、嘔吐、発熱などの症状を自覚したりします。そのまま放置していると、腸や卵巣・精巣などの血流が悪くなり内臓が腐ってしまうケースもあります。

もしかして鼠経ヘルニアかも?
鼠径ヘルニアが気になったときにするチェックリスト

鼠径ヘルニアは鼠径部である太腿の付け根に自覚症状が現れやすく、ご自分で見つけやすい病気です。自覚症状には個人差がありますが、お腹に力を入れる、立ち上がる、咳き込むなどで、太腿の付け根に違和感があったら鼠径ヘルニアの可能性があります。次の中で気になる項目があれば、お気軽に当院へご相談ください。

  • 鼠径部が腫れている感触がある
  • 鼠径部につっぱり感などの違和感がある
  • 立った状態で鼠径部にふくらみがある
  • 腸が引っ張られるような感触がある

自覚症状には個人差がありますが、お腹に力を入れる、立ち上がる、咳き込むなどで、太腿の付け根に違和感があったら鼠径ヘルニアの可能性があります。

鼠径ヘルニアの治療

鼠径ヘルニアは良性疾患ですが、手術をしないと完治しない病気です。昔はヘルニアバンド(脱腸帯)を使用して飛び出した腸を押さえつける方法もありましたが、バンドを外すとすぐに腸が飛び出てしまいますし、炎症をおこしやすいので現在はおすすめしていません。

痛みや違和感など鼠径ヘルニアの症状で日常生活が妨げられる場合には、適切な時期での手術をおすすめしています。嵌頓(かんとん)をおこすと緊急手術を要しますし命にかかわるケースもありますので、学業や仕事への影響を最小限にするなら計画的な手術がよいでしょう。また、鼠径ヘルニアの症状がない場合には、一定期間様子を見る選択もできますので医師にご相談ください。

なお手術にはリスクが伴います。当院では鼠径ヘルニア手術を小手術としての認識ではなく、専門性をもって治療を行う姿勢を常に心掛けておりますので安心して手術を受けていただけます。

当院での手術適応

当院での手術適応は以下の通りです。

  1. 過去に1度でも嵌頓(かんとん)した経験がある
  2. 日常生活に支障をきたす症状がある
  3. 症状が軽くても本人の強い希望がある

ご自身の鼠径ヘルニアが手術適応かどうかや、手術を受ける時期については、担当する医師にご相談ください。

当院の手術方法

当院の鼠径ヘルニアの手術は、2泊3日の短期滞在手術で手術の翌日に退院できます。土曜日も手術をおこなっており、学業や仕事への影響を最小限にできます。
鼠径ヘルニアの手術による身体的負担や再発のリスクを低減するため『TEP法(腹腔鏡を用いた腹膜前到達法)』と『Direct Kugel法(前方到達法)』をおこなっています。

TEP法(腹腔鏡を用いた腹膜前到達法)

TEP(テップ)法は腹腔鏡を用いた鼠径ヘルニアの手術方法で、腹壁内(お腹の外側)で人工補強材(ポリプロピレン製メッシュ)を用いてヘルニアの穴を閉じる方法です。TEP法は“腹腔内”操作(内臓に触れてしまうお腹の中での操作)を必要とせず、“腹壁内”のみの操作で弱くなった部分を含む腹壁を広く補強できる術式です。腸閉塞や臓器損傷といった腹腔内の合併症が非常に少なく、腹膜を開けないことから癒着の心配がない、術後3か月までの疼痛が少ないというメリットがあります。
TEP法でできる傷の大きさは2~3㎝くらいで3か所できます。

Direct Kugel法(前方到達法)

Direct Kugel法は人工補強材(ポリプロピレン製メッシュ)で穴の開いている部分を広く覆って補強することで、腸などが出てくるのを防ぐ手術方法です。鼠径部に走行する、腸骨鼠径神経・腸骨下腹神経・陰部大腿神経陰部枝など、鼠径部周囲の知覚神経を温存し、術後神経疼痛をおこりにくくします。また内鼡径ヘルニア・外鼡径ヘルニア・大腿ヘルニアが出てくる3つの穴を同時に覆うことで術後の再発を予防しております。Direct Kugel法でできる傷の大きさは片側3~4cm程度で、傷は1か所のみです。

当院で鼠径ヘルニアの手術をうけるメリット

当院で鼠径ヘルニアの手術を受けるメリットは、次の4つです。

  1. 2泊3日の短期滞在外科手術で、手術翌日退院する事が可能です。日程に関しましてはご相談ください。
  2. 当院には、鼠径ヘルニアのTEP法の実績が豊富な医師が在籍しております。
  3. 担当医は茨城ヘルニア研究会代表・事務局であり、ヘルニア治療を専門とし数多くの経験をしてきております。
  4. 創部を最小限に抑え、患者様のお身体への負担を軽減するとともに、再発率を抑えることを考えた治療を心掛けております。

鼠径ヘルニアを放っておいたらどうなる?

鼠径ヘルニアは、腸が脱出する穴が大きくなるとふくらみも大きくなり、痛みや不快感などが現れることがあります。また繰り返し腸が出てしまうことで、腸の動きが悪くなるため便秘症状を訴える方も少なくありません。さらに、飛び出している臓器が元に戻らなくなって穴にはまり込んでしまうことで、臓器が締め付けられ血液の流れが悪くなり、最悪の場合脱出した部分の腸や筋肉・脂肪組織・皮下脂肪などの臓器が壊死してしまうこともあります。この状態を嵌頓(かんとん)といい緊急手術が必要になるため、当院では適切な時期の手術を推奨しています。

一般診療
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